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Smells Like Maniac 第5話 共鳴 其の3〜ユーシュエン編〜

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Smells Like Maniac 第5話 共鳴 其の3〜ユーシュエン編〜

 

〜ユーシュエン編〜

間違いなく、今まで生きてきた中で一番興奮しているとユーシュエンは思った。小さい頃から勉強はかなりできる方で、比較的裕福な家庭の援助もあり、名門と言われる大学にそれほど苦労することなく進学することができた。アジア系ということで、子ども同士の差別や区別はあったが、あまり苦にならなかったし、勉強や運動で頑張ればそれなりに認められた。それよりもユーシュエンの心に影を落としたのは、大人たちの微妙な区別だ。自らの心の醜悪さに微塵も気づかず、綺麗事を言っている大人には我慢がならなかった。よく観察しているとわかるのだ。本人たちさえ気がついていない小さな悪が見えると、心の中でコツコツと何かがぶつかるような感覚があった。成長するごとに、社会を形成する継ぎ目が、こんな“小さな悪”で糊付けされているのだと気づき、自分の中で何かが音を立てて崩れていった。

大学で将来何をしようかと考えたとき、自分の中に答えはなかった。心のその答えが描かれている部分だけ、ポッカリと穴が空いているようだった。適当に就職してやりたくもない仕事を死ぬまで続けるのか。やりたいことはないが、そんな麻痺することに慣れるような人生は死んでも送りたくなかった。

ある日街を歩いていると、酔っ払い二人が急にケンカをし出しので、スマホを取り出して撮影した。家に帰ってから動画を見返すと、パンチが顔面に入って倒れるシーンなどがあり、割りと見応えがある。ネットにアップすると1週間で10万を超えるアクセスが集まり、ある種の快感が走った。それから探せばもっと面白い動画が取れるかもしれないと思い、校舎でマリファナを吸っている教授、交通の罰金を自分のポケットに入れている警察官。ドラッグの取引の現場など、いくつも撮影した。1年ほどで動画の広告料でかなりの金が入るようになったし、何より自分が社会の裏側を世間に知らしめているのだという使命感があった。しかし、まだ何か足りない気がする。あとほんの1ピースだけだ。

違法賭博ができるからと泊まってみたこのホテルで、殺人が起こった。ソフィアとジェームズの二人の死体を見て、理性は被害者の気持ちを考えると痛ましいと言っているが、ユーシュエンはそれが嘘だとわかりはじめている。この先は偽善で人生を台無しにしてなるものか、と強く思った。ジェームズやソフィアが殺された理由は何なのか。犯人は誰なのか。本能がすべて知りたいと渇望している。

ホワイトブロウの半円の形こそ、自分の心に欠けていたラストの1ピースだった。ユーシュエンはそう確信した。その証拠なのかはわからないが、カルロやイドリスやクリスたちと話していると居心地がいい。何かについて皮肉を言ってくるロバートでさえ必要だと感じられる。この場所こそ自分の居場所なのかもしれない。おそらく、みんな心が一片欠けてしまった者同士なのだろう。彼らもホワイトブロウの1ピースで足りない部分を埋められたのだ。いわば心に同じ白銀の半円の刺青を入れた義兄弟に近いのかもしれない。

そんなことを考えながら、ユーシュエンは、今まで合理的な発想しかしてこなかった自分に、こんな詩的な一面があったことに少し驚いた。

殺人事件に巻き込まれる、考え得る最高のエンターテインメントじゃないか。こんなに楽しいことはないだろう。体の奥で何かが漲っている。

 

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Smells Like Maniac 第5話 共鳴 其の2〜カルロ編〜

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Smells Like Maniac 第5話 共鳴 其の2〜カルロ編〜

 

第5話〜カルロ編〜

 

 カルロは自室に戻って考えた。アレハンドロがシアタールームをチェックしたときにジェームズとその横にあった書き置きを見つけ、全員の安否を確かめる過程でソフィアの死体も見つかった。10時半に来た清掃員たちには適当な事情を話して帰した。殺された二人はそれなりの理由があったのだろう。しかし重要なのはそこではない。アンと自分の身を守るためにも、犯人が誰なのか想定しておかなければ。殺人が起こったときホテルに泊まっていたアレハンドロ、シェフの・ジャン、従業員のマーシーは恐らく犯人ではないだろう。全員2〜3年は勤めているし、素性もよく知っている。やはり宿泊客の中に暗殺者がいるのだ。カルロの勘は、イドリスかクリスが犯人だろうといっている。特にイドリスは年の割に体つきがガッチリしている。

 

死体には争ったりもがいたりした形跡が殆どなかった。殺し方を熟知しているプロの暗殺者による可能性が高い。裏社会の揉め事が絡んでいるのだろうか。なぜカルロのホテルが犯行場所に選ばれたのか、気になった。偶然ならまだ気持ちは楽だが、カルロに対する何らかの脅しの意味もあるなら最悪だ。売買してきた土地の件での揉め事はひとつやふたつではない。しかしそれは今に始まったことでもない。裏社会から恨みを買うような問題は、最近は起きていないはずだ。

 

カルロはこのホテルを作った経緯を思い出した。50歳を過ぎて、不動産などの事業で儲けを出すことに価値が見出せなくなり、第二の人生を歩むためにこのホワイトブロウを買ったのだ。円をバキッと半分に折ったようなシンプルな外観がとても気に入ったし、ベイルの町から離れている立地も気に入った。趣味のハンティングをするにも最適だ。湖では大きなマスも釣れる。土地や建物の売買ではトラブルがつきものなので、ホワイトブロウを買う前にもこの建物ができた経緯について詳細に下調べをした。どこかの富豪が1940年代に建てたものらしい。その後、何回かオーナーが変わっている。特に注意するべき人物は関わっていないようだ。変わったところといえば、建物のデザインを手がけたのがイラクの出身だったことだ。現在では珍しくないが、当時のアメリカではなかなかなかっただろう。

 

カルロは407号室へ入りソファに腰を下ろした。葉巻に火をつけてソフィアを眺める。若い頃に、不動産絡みのトラブルで殺された人間を何度か見てきた。そのとき見たものと違って、この死体には憎しみや嫌悪感は全くない。アンより少しだけ年上に見えるソフィア。彼女は幸せな生涯を送ってきたのだろうか。ふとカルロは、アンの人生が幸せなのかを考えた。

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Smells Like Maniac 第5話 共鳴 其の1〜クリス編〜

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Smells Like Maniac 第5話 共鳴 其の1〜クリス編〜

 

バーテンが皆のカップにコーヒーと紅茶をなみなみと注ぎ、15時ごろから全員でラウンジに集まって話し合いが始まった。警察への証言を擦り合わせるためのものだ。いくつか深刻な問題がある。

「監視カメラの映像には何か映ってないのか。」イドリスがカルロに聞いた。

「俺とみんなは、犯人から恨みを買えば殺されるかもしれない運命共同体だよな。だからこそ正直に話すが、このホテルには、違法賭博を楽しみに来る上客が何人もいるんだ。証拠を残さないために、カメラは設置してあるが起動させてない」

イドリスがカルロを睨みけた。

「誤解を恐れずにいえば、俺たちが証言を合わせるには、カメラに何も映ってない方が俄然都合がいいだろう」カルロが続ける。

 

「こ、この場面を動画で配信するのは、やっぱりダメかな?」

「おい、頼むから犯人は、何かあったらまずユーシュエンから殺してくれよ」ロバートとが皮肉っぽく言う。

ユーシュエンは中国系アメリカ人で、ネットの動画配信でかなり儲けているらしい。莫大なアクセスが見込めるチャンスを、みすみす逃したくないのだろう。もっとも、そんなことをすれば自分の命と引き替えになるが。クリスはそんなことを考えながら口を開いた。

 

「16日まで時間がある。警察が死体を鑑定すれば、14日の午前に死んだことわかるだろう。ジェームズとソフィアが1日以上ずっと食事にも現れなかったのを誰も気に留めなかったのは、不自然じゃないか」

「ソフィアの部屋にはDo not disturb(入らないで)のカードを掛けておこう。何とか誤魔化せるだろう。宿泊中は必ずレストランで食事しなければならない決まりもない」カルロが言った。

 

「ジェームズはシアタールームにいたが、映画をセットした従業員がいたはずだろう」

「そうだな、彼はシアタールームに入って酒を飲んでいただけで、映画は観ていなかったことにしよう。スタッフはディスクを取っておいてくれ」ロバートが言い、カルロがバーテンに指示を出した。ジェームズは死ぬ前に何の映画を観ていたのだろう。

 

シアタールームの窓が開いているのも、外部犯を上手く匂わせられれば、さほど不自然ではないな、とクリスは思った。

 

クリスが問題を提示し、カルロやロバートを中心に意見を言う展開が続く。

 

「さて、じゃあ本題だ。警察の捜査の目を外部犯に向けるためにはどうすればいいか」

「考え方を間違えない方がいい。窓に傷をつけたり、犯人の痕跡を外の森に残したり、そんなことでは今の警察の目は絶対に誤魔化せない。本を書くために以前警察を取材したが、想像の何倍も緻密な捜査をしていると思った方がいい。映画のアホな警察像は完全に捨ててくれ」

「そうだな。何か小細工を弄するよりも、個人個人のアリバイ、動機のなさを警察にどう証言するか話し合って固めていこう。そうすれば暗殺者は外からやってきてホテルの中へは入らず、外階段やバルコニーを使って直接部屋へ行った線が浮かび上がるだろう」クリスは言った。

 

「とりあえずアレハンドロ、お前が1時間置きにホテル内を見回っていた。しかし、ホテル内で不振な動きをする人物は見かけなかった。そういうことにしよう」カルロがバーテンにその役を押し付ける。彼が嫌がっていないところをみると、だいぶ信頼関係が出来ているのだろう。アレハンドロという名前なのか。

 

「それだけじゃ確実じゃないから、各階のラウンジかどこかにそれぞれ複数居て、夜遅くまで何かしらしていたことにしましょう。宿泊客の中にソフィアの部屋の周辺でうろつく人物や、シアタールームに向かう人物が誰もいなかったと証言すればいいんじゃない」シャーリーが言った。

 

「少し大胆だがいいアイデアだ。警察もまさか見ず知らずの宿泊客たちが全員で偽証しているとは思わないだろう。一蓮托生ってやつだな」ロバートが言った。

「では14日深夜の配置を決めようか。頼むから金を賭けてポーカーをしたことは内緒にしてくれよ。無許可なんだ」カルロが言う。

 

「俺の部屋はソフィアと同じ4階だ。その階のラウンジで本の原案でも書いていたことにしよう。事実、部屋でその作業をしていたからパソコンにも履歴が残っている」ロバートが言った。

 

「わたしはクリスとバーでお酒でも飲んでいたことにするわ。夜遅くは入口からも誰も出入りしていないことにする」シャーリーが言う。

 

ケイトは4階のラウンジで読書、カルロとアンはそれぞれ自室で睡眠中。ユーシュエンとイドリスは3階のラウンジでパソコンを見て過ごしていたことになった。

 

「それにしても犯人はどうやってソフィアの部屋に入ったのかしら。鍵は掛かってたんでしょ」アンが従業員のマーシー方を向いて話す。

 

「アン、状況を考えてくれ。今俺たちは犯人探しのゲームをしているんじゃないんだ。この場で探偵ぶって犯人を特定しても、いいことは何も起こらないだろう。まるで違うゲームなんだよ」カルロがあきれ顔で念を押すように言った。

 

「最後にもうひとつ、他人の部屋に入るにはマスターキーが必要だろう。マスターキーが保管されていたことがある程度証明できるなら。内側から誰かが部屋に入るのは、例え全員の目を盗んだとしても困難になるな」クリスは言った。

カルロがマスターキーは昨夜金庫に入っていたかをマーシーに聞き、彼女は頷く。

 

昨夜の全員のアリバイと、マスターキーが使われた形跡がなければ、必然的に外部から直接部屋に侵入した線に警察の目が行くと、クリスは思った。

 

「捜査に対する大筋は決まったし、夕食は7時半まで一旦解散にしよう」カルロが手を叩いて言った。

 

みんな、自ずと単独行動は避けるようになっていたが、結局は暗殺者が誰かわからなければ一人で鍵をかけて部屋に籠っている方が安全だ。ただ、クリスはまったくそんな気分にはならなかった。

 

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Smells Like Maniac 第4話 暗殺者からの依頼

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Smells Like Maniac 第4話 暗殺者からの依頼

〜ロバート編〜

ロバートは翌日昼前に起き、レストランで軽い昼食を食べていた。オーナーのカルロが血相を変えてやって来る。従業員のマーシーが2階のシアタールームにいたジェームズの死体を発見し、次いで407号室でソフィアの死体も見つかったと、そこにいる全員の前で話す。そして何かが書かれた紙をテーブルの中央に突き出す。マーシーがジェームズの死体の前で見つけたようだ。

 

「16日の午後15時まで外部に殺人の件を漏らすな。それまでに全員で話し合いソフィアとジェームズ殺した人物が外に逃げた可能性を示唆するため、口裏を合わせろ。指定事項前に警察に通報した場合、メールなどで事件を拡散した場合、もしくは16日に警察への供述を失敗した場合は、各々が家に帰って日常生活に戻った後、時間を見つけて全員殺しに行く」文面にはこう書かれていた。

 

「誰が何のためにこんなことをしたのかわからないが、犯人は外部の犯行だと思わせたいらしい。俺がソフィアとジェームズの死体を見る限り、完全にプロのクリーナー(暗殺者)の犯行だろう。もちろん即刻警察に知らせるべきなのは分かっているが、待って欲しい」カルロが息を荒げて言った。

 

「犯人の主張が本当だという確証はないのだろう」50歳手前くらいのイドリスという男性が言う。

「嘘だという確証もない。もし裏社会の組織が絡んでいれば、言われた通り証言を偽らなければ、本当に報復があるかもしれない。とにかくだ、宿泊客は今6人、俺と娘と夜もいた3名の従業員を入れても、ホテルには全員で11人しかいないんだ」

 

誰かの唾を飲み込む音が聞こえる。外部犯に仕立てろということは、この中に犯人がいる可能性が極めて高いことを意味しているからだ。

 

カルロは続けてソフィアとジェームズの死亡状況を説明した。確認したい者はこの後、一緒について来てくれということだった。食堂ではスプーンの音すら聞こえなくなっていた。

 

「まず、この場で警察に通報するか、明後日の夕方まで待つか話し合おう。全員の意思をひとまず統一しておかなくては」クリスが言った。

 

「警察がもし犯人を特定できなければ、ホテルから帰ったあと、毎日怯えて暮らすことになるわけね」ケイトが続ける。

 

それから小一時間ほど全員で意見を言い合う。異様な光景だ、とロバートは思った。凄惨な殺人が起こったあとで、被害者でも加害者でもない奴らが、こんな風に議論している。この中にソフィアとジェームズを殺した人物がいることも知りながら。それにしても一体誰が殺したのだろうか。ロバートの頭にふと、離れて暮らす娘のハンナの顔が浮かんでいた。

 

〜クリス編〜

 

結論は1時間も経たないうちに出た。イドリス以外の全員が、序盤から紙に書いてある“リミット”まで待つという意見で一致し、結局イドリスもカルロやロバートに言いくるめられて折れた。それからクリス、ロバート、ユーシュエンは、カルロに続いて、死体を確認するために食堂を出た。2階のシアタールームに入ると、凍えるように寒い。死体の腐敗を防ぐため、バーテンに手袋を嵌めさせ、普段は締め切っている防音・防寒の窓を全部開けたのだという。ジェームズは濃い赤色でべっとりコーティングされたウイスキーグラスを左手に持ちながら絶命していた。シャツの胸のあたりが裂け血が固まっている。複数の銃槍だ。口元が少し緩んでいて、不思議と苦しんだ表情には見えない。最後の痛みをバーボンで紛らわすことができたのか、とクリスは思った。

 

407号室に入った。バルコニーの窓右半面が開け放たれていて、真っ白い雪がソフィアの体を覆うように薄く積もっている。よどんだブルーの瞳は宙を見つめ、肘を床につき両手が開かれていた。クリスは、オフィーリアの絵を思い出した。長い時間見入ってしまったような気がしたが、時計の針は2分も進んでいない。横でやかましく話すロバートたちを意に介さず、クリスは心の奥底が熱くなってくるのを感じていた。

 

〜ヴァン編〜

 

なぜあんな書き置きが。警察に通報するかリミットまで待つかの話し合いのあとで、ヴァンは冷静に考えた。昨夜カメラを置いた人物が、カメラを取りにシアタールームに行くと無くなっていることに焦り、自身を特定されにくくするためにあんな文章を書いて置いたのだろう。話し合いの中で誰が暗殺者かを特定し、被害を受けないように距離を置くため。黙っているよりは全員で話し合いをさせ、お互いを監視させた方がよいと考えたのだ。しかし逆にいえば、話し合いでの皆の発言から、こちらからも依頼者に通じる人物が誰なのか見つけやすい。

 

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Smells Like Maniac 第3話 ソフィアはどこへ行った?

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Smells Like Maniac 第3話 ソフィアはどこへ行った?

 

〜ソフィア編〜

バスルームから出ると、金がテーブルに置かれていた。ソフィアはそれを一瞥すると服を脱いでシャワーを浴びる。ポーカーのあと、少しだけでいいから話をしたかった。バスローブを羽織り髪をゆっくり乾かした。部屋に一人でいるとホワイトブロウの静けさが余計に強まるようだ。今、自分以外の世界は消えてしまっているのではないか、上手く説明できないがそんな感覚になった。ガラス越しじゃなく、外の雪を見たい。ソフィアは窓を開け放った。ひりつくような冷気。雪月夜、初めて見る。見とれていると胸に焼け付くような熱さを感じた。体から何かが溢れ出ている。絶叫したつもりだったが、手袋をはめた誰かの手が喉の奥まで入り込んで塞がれている。月は雲に隠れた。それなのに辺りは白くまぶしい。窓から入る雪は、わたしに積もるだろうか。

 

〜ヴァン編〜

ソフィアが窓を自分で開けたのには少々驚いた。何の偶然だろうか。おかげでガラスを割る手間が省けたのではあるが。ヴァンは、2階の右端へ誰にも見られないように気を配りながら急ぐ。ジェームズはポーカーのあと、部屋に戻らずシアタールームへ入ったのを事前に確認している。中に入ると彼は中央席で一人映画を見ていた。ヴァンを一瞥すると隣の席に座れと指差す。まだスコッチを飲んでいるようだ。近づいてサイレンサー付きの銃を取り出すと、ジェームズはまだ状況を理解していないようだった。心臓を3発撃つ。ジェームズの口からどっと出た赤黒い液体がグラスに注がれる。何の映画だろうか、画面が爆発シーンか何かで一気に明るくなる。小さな光が見えた、スクリーンでなく客席の椅子と椅子との間でだ。ヴァンはそこに小型のカメラを見つけた。殺人の現場を撮るなど、依頼者の指示か何かはわからないが、完全にルールを逸している。事前に送られてきた。AM3:00にソフィアを、AM 3:30にジェームズを殺せという依頼。二人の殺害以外にも何か目的があるのか。ヴァンは怒りを何とか抑えて思考を張り巡らす。カメラを置いた人物を突き止めなければ。状況次第では予定外の殺しが必要だと考えた。

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Smells Like Maniac 第2話 ホワイトブロウ その3〜テキサスホールデム〜

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Smells Like Maniac 第2話 ホワイトブロウ その3〜テキサスホールデム

 

〜シャーリー編〜

 

テキサスホールデム(ポーカー)がはじまった。間接照明が肌を薄黄色に照らす。壁にはエッシャーの「滝」や、マグリットの「恋人たち」の絵が掛かっている。

 

バーテンのカード捌きは中々のものだ。バーテンよりもこちらが本業なのかもしれない。

 

このゲームの最中以上に人間観察が楽しめる瞬間はないだろう。ポーカーに勝つのも勿論楽しいが、その人について深く知ることができるのが、このゲームだ。その人物から、目の前で淹れたコーヒーの味を褒められるときと同じか、それ以上のことが分かる。コーヒーに関していえば、同じ味でも人によってどこに着目しているかが全く違う。そこに性格や感性を知ることができる。

 

全身タトゥーのいかつい男性が、コーヒーについて思いもしなかった繊細な感想を投げかけてくれた時、その人を深く知れた気になるし、世の中捨てたもんじゃないと感じられる唯一の幸せな瞬間だった。ポーカーはいうなれば、そんな意外な瞬間の連続だ。賭けを繰り返していると、本人すら気づいていないような深い感情が見えることがある。

 

左隣のクリスは、ポーカーフェイスこそ上手いものの、最後のベットでロバートに勝てない展開が続く。賭け事にはあまり慣れていないようだ。頭の中では焦っているのだろうか。想像してみると少しかわいく思えた。

 

食事の最中は隣でずっと喋ってジェームズは、ゲームの最中はほとんど口を開かない。負けるのが大嫌いな人の特徴だ。

 

ロバートは冗談を言いながら、時々相手が怒りそうなことまでさらっと口に出す。冷静さを失わせ、それがゲームにどう影響を与えるか観察しながら楽しんでいるようだった。彼も人間を見るのが好きなのかもしれない。

 

オーナーのカルロは負け出すとあからさまに顔が険しくなってきた。ゲームには慣れているはずだが、ポーカーはそこまで強くはないようだ。

 

飲んでみんなで喋りながら、ゆっくりとゲームは進んでいく。

たった1〜2時間ポーカーをするだけで、10年来の親友についてよりもここにいるメンバーのことを深く知れた気がする。そして、全く気を使わなくても大丈夫な不思議なメンバーだった。他人の目線を気にしているような人物は一人もいない。煙にまみれたこの空間は何とも心地よかった。

 

時計の針は2時を回っている。今夜はロバートに軍配があがった。

 

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Smells Like Maniac 第2話 ホワイトブロウ その2〜エルクの剥製と地下室〜

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Smells Like Maniac 第2話 ホワイトブロウ その2〜エルクの剥製と地下室〜

 

〜クリス編〜

 

受付で夕食は19時半と指定されていた。客も少ないので、料理を何度も準備する手間を省きたいのだろう。レストランに入ると中央の長テーブルに案内された、右斜め向かいにはシャーリーが座っておりこちらに向かって微笑む。彼女の横にはそれぞれジェームズと大柄な男性が座っていた。

 

クリスの右側にはロバートという、短いヒゲをダンディに揃えた50代手前くらいの男性、左にはケイトという落ち着いた雰囲気の女性が座った。テーブルについたのは全員で9名。料理が運ばれてきた。レストラン内の壁には、エルク(アメリアカシカ)の生気のない剥製が何体か飾られていたが、前菜はエルクの生ハムのサラダだった。

 

「鹿肉は好きかい」ロバートが尋ねてきた。

「さあ、普段はあまり食べないので」

「彼らに向かって言って」ロバートは剥製を指差して笑った。

 

クリスも笑いながら話していると、彼が10年程前にベストセラーになったサスペンス小説「野生の思考」の作者だとわかった。おぼろげながら、ずっと前に読んだその本の内容を何とか思い出し、人物と風景を絡めた心情表現が独創的だったと褒めた。するとロバートは視線をテーブルの料理に落とす。

 

「わざわざ古い記憶を引っ張り出してくれてありがとう。俺が認めて欲しかったのはまさにそういった表現でね。よければ君と、それから壁の鹿との出会いに乾杯したいな」

 

皮肉めいた口調だが、本当に嬉しかったらしい。軽くグラスを当てると、ロバートは白ワインを一気に飲み干し、文学や自身の創作について熱く語りはじめる。彼はもともと純文学に傾倒し、そういう作品を書いていたが、何年もまったく売れず困窮した。そこで、エンタメ性の強いサスペンス作「野生の思考」を書いたところ、思いがけずヒットしてしまったらしい。

 

「その後も、続けてエンタメ作を書けばよかった。自分が書きたい作風のものを書いたら、世間からはそっぽを向かれてしまった。ミスだったよ」ロバートは向かいの壁を見ながら、そう話した。

 

もう少し同じ路線を続ければよかったのかもしれないが、ロバートはそれをやらなかったのだ。

 

なかなか難しい問題だろう。建築家やデザイナーの間でも、世間に受けるスタイルで仕事をこなしているうちに、その人が本来持っていた芸術性を失ったという話はいくらでもあった。しかしロバートはそれが嫌だったのだろう。ベストセラー作家の名前欄からは遠のいてしまったが、彼はまだ自分を失ってないのかもしれない。

 

 メインディッシュは、エルクの骨付き肉のロースト。シェフが言うには低温調理で、エルクの血とトリュフを使った特製のソースを使っているらしい。血が滴る赤身は絶品だった。すぐに胃袋に入れるのはもったいなく、口の中で何回も噛んで味が変わっていくのを楽しんだ。

 

夢中で食べていると、ロバートは反対側を向いてアンという女性と話していた。クリスは隣に座っている憂いのある不思議な目をしたケイトに話しかけた。低血圧っぽい、もったりした独特の喋り方をするその口からも赤い色が滴っている。

 

「少し変わっているけど、とってもいいホテルね」彼女がそう話したことだけ覚えている。

 

食事を終わった後も、ワインを飲みながらしばらく宿泊客同士で談笑は続き、それに飽きた面々は自分の部屋に戻っていく。シャーリーの隣に腰掛けて話していると、ロバート、ジェームズ、ユーシュエンという中華系の若者、そしてソフィアという女性が部屋に残った。

 

ジェームズが他の部屋へ行こうと言い、レストランを出てちょうどラウンジの裏手にある書斎のような部屋に入っていく。みんなもそれに続いていった。するとバーテンがやってきて奥の本棚をズラす。裏に空間が現れ、階段が下へ続いていた。

 

薄暗い空間の中で小さな影が動いた。グレーの猫だ。地下室へも出入りできるのか。中央には木造りの重厚なポーカーテーブルがある。中央のスペースはコチニールレッド(臙脂色)だ。バーテンがみんなに酒を作った後でディーラーの仕事をし始めた。

 

「坊やはポーカーのルールがわかるのかな」少し酔ったロバートが隣の席のユーシュエンに絡んでいた。ユーシュエンは適当に流している。見た目は幼く見えるが、案外しっかりしているのだろう。こんなところに一人で来る度胸があるくらいだ。

 

カードを一枚ずつ引き席を決めると、ホテルのオーナーだというカルロという男がやって来て右端のビックブラインドの席についた。キューバ製の高価そうな葉巻をカットして咥える。煙を吐きながら、知らない人間とここで賭け事をするのが何よりの楽しみだと語り出した。ユーシュエンとアン以外は全員喫煙者なので、照明を吸収した紫色の煙が、すぐ室内に広がった。

 

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Smells Like Maniac 第2話 ホワイトブロウ その1〜切り離された空間〜

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〜クリス編〜

 2月13日。クリスはデンバーへ向かう飛行機の中で映画を1本観た。 レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐の絵には女性が写っているだの、聖杯がどうのこうだのという内容だ。ストーリーの原作者はよっぽどキリスト教が嫌いなのだろうか。それとも信仰しているからこそ、敢えて新説を提示してみたのだろうか。物語の本筋よりもそちらが気になった。

飛行機を降りると雲はあるが晴れている、映画のことはすっかり忘れていた。デンバー国際空港からシャトルバスに乗り、本を読みながら3時間揺られ、標高2,484mのイーグル郡ベイルの集落に到着した。ベイルは毎冬スキー客が集まる観光地で、町には意外にも人が多い。現地の人間によるとホワイトブロウ・ホテルは少し離れているので、歩いては行けないらしい。

クリスはハイヤー(タクシー)を紹介してもらい、乗り込んだ。ホテルへの道は除雪がおろそかになっているせいで、運転手は時速20kmも出さずにゆっくり進む。チェーンと雪が擦れる音が車内に響いた。運転手にホテルの評判を聞いてみた。

「俺は泊まったことがないんで詳しくはわからねえが、話によるとベイルにある他の高級ホテルと遜色ないようだ。だけどよ、値段が相場の4〜5倍もするんだぜ。誰がオーナーか知らんが、商売する気はないんだろうな」

確かに、ネットで見たときも1泊2,200ドルの部屋しかなかった。ミシュランの星がついているホテルでもない。高すぎると思ったが、ベイルの中心街から離れていて、意図的に他の建物を避けたような場所にあったのが気に入ったのだ。やがてホワイトブロウ・ホテルに着き、運転手に少し多めにチップを渡した。

15時を少し過ぎている。大きな木造の扉を引くと、暖かい横長の空間が広がっている。静まりかえっていたので無人かと思ったが、左手のラウンジから外を眺めている女性が一人、すぐ横のカウンターには無愛想なバーテンが立っている。視線を正面に戻すと右の壁際でグレーの猫が悠々と歩いてる。

荷物を引いて中央右の受付ベルを鳴らすと40代半ばくらいの従業員女性が気怠そうに現れ、403号室に案内された。部屋からは下の方にベイルの町並みが見える。山の斜面は雪が積もっている部分と、常緑樹が密集している部分のコントラストが面白い。クリスは荷物をほどかず、ラウンジにコーヒーを飲みに降りた。

1階のラウンジの窓からは、白いラインが何本も入った向かいの山の広大な斜面が見えた。外には掴んだら手からサラサラと落ちそうな真っ白な雪が積もっている。

クリスは職業柄か、ホワイトブロウ・ホテルの外観と内観を頭に思い描いていた。バームクーヘンを半分に割ったような、雪と同化するような白一色の5階建。1階は受付とラウンジバー、通路を左へ入ると右側にレストランがある。2階にはフィットネスジムとビリヤード場、図書室、シアタールーム。3階〜5階は各階8部屋の客室があるが、この静かな雰囲気だと、予想通り泊まり客は少ないだろう。自分のことを誰ひとり知る人物がいないこのホテルで、しばらく仕事のことを忘れてリフレッシュできる。

高校ではそこそこ成績優秀な方だった。卒業してすぐ大学へ行きたかったが、育ての親はそんな金を持っていなかったので軽い気持ちで陸軍へ入隊し、1年と少しイラクに駐留した。帰還して建築科へ進学。2年も経つと周囲からは優秀だと言われるようになったが、イラクから帰還した以前の記憶がまるで空白のように感じられていたクリスにとっては、建築や芸術を吸収しない方が不自然だっただろう。

卒業してからは建築事務所に入り30歳を過ぎて独立。建物の設計とデザインの会社を運営している。当初は大変だったが、今ではなんとか5名のチームを雇い、メンバーとの関係も上手くいっている。皆仕事への情熱は持ちつつも、お互いの家族や恋人を貶して笑い合うことを忘れない。いいチームだ。

会社はシアトル周辺の業界内では徐々に知名度を得てきていたが、個性を存分に出せるような、デザインに重点を置いた大型の仕事の受注にはまだ至っていない。クリスにはこのままで建築家として名を馳せることができるかという漠然とした不安が募っていた。自分はザハ・ハディッドのような偉大な芸術家と呼べる域までいけるだろうか。普遍的なラインを持った建築物を世に残すことができるだろうか。コンペに参加しなければと思いながらも、そこに出せるような納得のいくアイデアは浮かんでこない。

このまま細かな案件をひとつずつこなしているうちに、いつの間にか老いて死んでいるのではないか。自分が死んでも何百年も残るような建物のデザインを命がけで手がけてみたい。

 陽の光の中、雪がゆっくりと降りはじめる。せっかく仕事に追われて凝り固まった頭をリセットするつもりで来たのだし、そろそろ自分を哀れむのはよそうと思ったところに、ラウンジの端にいた女性が近づいてきた。すらっとして背が少し高いその女性は軽く会釈をした。

離れて見たときは冷たい表情に見えたが、近くでみるとあどけない。少しシャイなのだろうか。クリスも微笑み返す。シャーリーというその女性は休暇でホテルに来たが、暇を持て余していて世間話でもしたかったらしい。二人はしばらく、なぜわざわざこのホテルに来たかなど、たわいもない話を続けた。

シャーリーは小さなバリスタの会社を起業し、企業や店舗から依頼を受けてチームのスタッフを派遣させる仕事をしているという。「多くの人がスキー目的でベイルを訪れるけど、このホテルはそんな人たちお呼びじゃないらしいわ。冬の間に山に篭って1人になりたい変人向けなのね。きっと」彼女は冗談っぽく言ったがあながち間違っていないだろう。ときどき彼女の金色の髪が、雪の反射光で白銀に見える。

二人で談笑していると雲が出てきたのか窓から光が入らなくなり、バーカウンターに短髪の男性がやってきてバーボンを注文した。グラスを回しながらこちらをチラチラ伺っているが、別にそれを悟られても構わないようだ。少したつと、ほとんど氷だけになったグラスを持ってこっちにやって来て座った。

そして彼は(名はジェームズ)2階のフィットネスジムで休暇中も体を鍛えているなど、どうでもいい話をしだした。世間話だと思って適当に聞き流して相槌を打っていると、彼は会話の腰を折るように話題を変えた。ホテル地下室があるとか、指を擦りつける仕草でかなり回りくどい言い方をしているが、シャーリーもすぐに勘づいたらしい。要は賭博ができるスペースがあるようだ。夕食のあと夜9時過ぎくらいからどうだろうという話だった。

シャーリーはクールな笑顔でOKサインを出している。クリスは賭け事に慣れている方ではないが、コロラドのこんな雪山でひっそりとするカードゲームがどんな雰囲気なのか、興味が湧いた。

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Smells Like Maniac プロローグ&第1話 闇に生きる

ルネマグリットの絵画

Smells Like Maniac プロローグ&第1話 闇に生きる

プロローグ

 女はどんな心境で窓を開けたのだろう。何かを感じとったとしか思えない。雪降る夜にシャワーを浴びた後のバスローブ姿だ。外を見つめていた女の目が大きく開いたかと思うと、胸から溢れた血に月が映り揺れていた。叫ぼうとしたのだろう。呻き声は聞こえたが、バルコニーから銃を撃った人物の分厚い手袋をはめた手が女の口に突っ込まれていた。もがきながら倒され、体は大きく波打つように痙攣し始める。これが命の終わりなのか。肉体は動かなくなり、静寂が再び部屋を満たしていく。月の明かりは消え、彼女を殺した人物も去った。雪が窓から吹き込んでくる。

 

 奥の間に置かれたソファの死角からそっと立ち上がった、横たわる女に歩みを進める。溢れ出ている涙を袖でこするが、それが悲しさか感動からか、自分でもわからない。女の側に立って見つめた。生きた死体とでも表現すればよいのだろうか。白かった肌が溢れ出る鮮血に染まっていく様は、名だたる芸術家の絵よりも遥かに価値があるのではないか。生命の残像のような肉体の蠕動が終わるまでは、死体であって死体でない中間の霊性を帯びた存在。あのダリでさえ、この作品を目撃したら裸足で逃げ出すに違いない。

 

第1話 闇に生きる

 

 奇妙な依頼だった。裏の仕事を仲介するサイトからだ。木造りのテーブルが自慢の古いダイナーで、ヴァンは熱く苦いコーヒーを口に含み少し焦った。「コロラド州ベイルにある、ホワイトブロウ・ホテルへ行ってほしい」と書いてある。場所の指定を受けたのは初めてだ。ノートパソコンに映る文面からは、イタリア製のスーツのようないけすかない雰囲気が漂う。

 

ヴァンはテーブルに肘をついて、指をこめかみで波打たせながら画面を読み進める。論理立てた思考が、どうしてもカフェインでブーストされた興味を打ち負かせない。

 

「2月13日にホテルにチェックインしてくれ。宿泊客を2人殺してもらう。ターゲットについての情報は、追って連絡を入れる。報酬は360,000ドル(日本円で4000万円弱)」文面はそう続いていた。日程は急だが、一般人の殺しとしては悪くない。

 

正規の客を装って行けば、リスクはそれほど高くないはずだと、ヴァンは思った。コーヒーマグをテーブルに置いた音が鈍く響く。

 

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2045年シンギュラリティ問題とターミネーター!人類ラスボスはフレディ・マーキュリー!

T2の正統な続編といわれる『ターミネーター:ニュー・フェイト』がついに公開された。しかし、お祭りさわぎを傍目(はため)に、僕の頭にこだましているのは恐怖。それも、圧倒的な恐怖である。

機械と人間の争いの物語であるターミネーターが、2045年問題(シンギュラリティ)と重なり、買い物している最中とかに、立ちすくんでしまうのだ・・・

そこで、2045年問題における人類の課題と、その背後にいるターミネーター。そしてラスボスのフレディ・マーキュリーについて本気で考えてみた。

AIが人間を超える2045年問題/シンギュラリティ

そもそも、2045年問題とは何か?カンタンにいうと、A.I.(人工知能)が人間の能力を超える問題だ。技術特異点(シンギュラリティ)とも呼ばれる。つまり、人間が作るA.I.より優れたA.I.を、A.I.自身が作り出せる状態ということ。

「だいたい2045年くらいに来るっしょ!」えらい博士たちがウワサしており、2045年問題と呼ばれている。

シンギュラリティとロボット

この問題は、コンピューターが普及したての結構前から言われており、スカイネット(A.I.)に人類が負けそうになるターミネーターシリーズも大まかにいえば、そのテーマを扱っている。

2045年問題についてよくいわれているのが、A.I.に人間が支配されちゃう説である。ターミネーターは映画でみても怖いのに、リアルで実現したらどうしよう!少なくてもT-1000とは友達になれそうにない・・・

ターミネーター2 T-1000

2045年問題の一般的な認識

2045年の本当の問題はもっと奥に?

2045年問題でシュワちゃん(T-800)やT-1000がリアルになる可能性を聞き、「もう学校に行かなくてもいいや!」と思ってしまった高校生がいるかもしれない。

しかし、単純に本当にターミネーターのように、スカイネット(人類を敵視するA.I.)が登場するとは限らず、人間とA.I.は、今まで通り共存できるともいわれている。映画でイメージするとジョニデの『トランセンデス』とか、ホアキン・フェニックスの『her』の世界観に近い。

イメージはこんな感じ! A.I.と一体化して暴走するジョニデ

herのホアキン・フェニックス A.I.の彼女と楽しそうなホアキン・・・

ただ、僕がビビっているのは、つぎの項目で説明するもっと根本的な問題だ!!

芸術と快楽の暴力?フレディ・マーキュリーのA.I.が誕生したら

僕が考える2045年問題の恐ろしいところは「もう人間いらなくね?」「てか、人間になんか価値あんの?」という状態に人間自身が陥ってしまう可能性があるという点だ。

人間は肉体的にショベルカーや車に叶わない、チェスや将棋でも、もう世界のトップレベルのプロでもA.I.に勝てない。それでも今は、創造性や芸術性という面で圧倒的に勝っている!

しかし、2045年問題が実現すれば、物語制作、作曲、ポエムなどもA.I.にボロ負けてする可能性がある(現時点で作詞作曲できるA.I.もいるし)。その分野で人間が負けてしまったら、人は何を夢や目標に生きればいいのだろうか!?

つまり、A.I.が書いた小説の方が面白く、A.I.が作った曲の方が感動する!そんな未来になるかもしれないんだ。

A.I.が作るターミネーターの続編を人類が楽しみに待つというシステムは結構笑えない。それどころか、心を揺さぶる人の歌声までA.I.とロボが再現してしまったら、それはウィー・ウィル・ロック・ユー時代の幕開けとなる。

その未来で怖いのはターミネーター ではないんだ。シュワちゃんが現れた場合はまだわかりやすい。シュワちゃんと争うのか、友達になって一緒にT-1000を倒すかのシンプルな2択になるからだ。

ターミネーター シュワちゃん

友達になればこっちのもの( ´∀`)

しかし、フレディ・マーキュリーのA.I.が街中で突然歌い出したら、僕らはドンドンチャッしたい!という欲望を制御することができるのだろうか!?第一これじゃあ仕事にも学校にもいけない。

フレディマーキュリー ウィーウィルロックユー

突如、街中ではじまる宴!!o(`ω´ )o

笑うフレディ・マーキュリー  

フレディA.I.によるキラー・スマイル

昼夜問わず、365日そのへんの道端で開催されるクイーンのライブ。圧倒的歌唱力がもたらすその陶酔感にあがらう術はあるか?人類はフレディのシャウトによるカタルシスから、永遠に解放されないのではないか?

断言しよう、人類はフレディのA.I.に支配される。

2045年問題以降の真の恐怖とは、人類が生きる目標を失い、タンクトップを着て熱狂してばかりいることなのだ!

人類はフレディ・マーキュリーのA.I.に勝つことができるのか!?いや、もういっそのこと、フレディに支配された方が幸せなんじゃないか!?みんな一日中ロックしながらはしゃぎ回るのは、それはそれで楽しそうだ。日本は1億総快楽主義!最高かもしれない!

冒頭の結論を変えよう!僕はもう怯えない!ロジカルに考えてみたら、旧石器時代→中世→近代→現代のつぎは、ウィー・ウィル・ロック・ユー時代だからだ!

早く来い2045年!

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↑彼がA.I.となって甦り、急にそのへんで歌い出す