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サイレント傑作映画『カリガリ博士』ネタバレ感想・考察/ドイツ表現主義がサスペンスに影響を与えた1920年公開作品

映画『カリガリ博士』

1920年公開のドイツ映画『カリガリ博士』は、のちのサスペンス映画に多大な影響を与えたサイレントの傑作です。

ネタバレなしの見どころ、ネタバレあらすじ解説、ストーリーの革新的な点やアート的な観点から本作を考察していきたいと思います。

映画『カリガリ博士』作品情報

公開・制作国:1920年 ドイツ

監督:ローベルト・ヴィーネ

脚本:ハンス・ヤノヴィッツ/カール・マイヤー

原題:『Das Cabinet des Doktor Caligari』

撮影:ウィリー・ハマイスター

主演:ヴェルナー・クラウス/カリガリ博士役

出演:フリードリッヒ・フェーエル/フランシス役

出演:コンラート・ファイト/チェザーレ役

出演:リル・ダゴファー/ジェーン役

出演:ハンス・ハインツ・フォン・トワルドウスキー/アラン役

見どころ・ストーリーネタバレなし感想

チェザーレがジェーンを襲うアーティスティックなシーン『カリガリ博士』

『カリガリ博士』は映画好きやアート好きは見た方がいい作品です。

100年以上前の映画ながら時系列の組み替えや、ストーリーのどんでん返しなど構造が画期的であり、現代サスペンス映画の基礎になっています。

さらに一番の見どころはドイツ表現主義の影響を受けた素晴らしい映像の数々

斜めに歪んだ小屋、三角のドア、ありえない構造の病院など見応え抜群。

現代アートにちょっとでも興味がある人は絶対に見るべきです。

モノクロのぼやけた映像も相まって、全シーンをアートとして楽しめます。動く美術館を見ている感じですね。

逆に、昔の映画が苦手だったりアートに興味がない人には向かないかもしれません。

※以下、映画『カリガリ博士』のストーリーネタバレありなので注意してください。

 

『カリガリ博士』動画+ネタバレあらすじ

『カリガリ博士』は1920公開なので、著作権が切れているため、英語字幕のものを全編(セリフは少ないので難易度は低め)Youtubeで視聴することができます。

動画はこちら↓

youtu.be

全編ネタバレあらすじ解説

(補足で全編のネタバレあらすじ解説も書いておきます。)

青年フランシスは、ある老人から「私は幽霊に取り憑かれて家族を捨てる羽目になった」と聞かされます。

フランシスは、虚な目で歩いてくる婚約者のジェーンを指差しながら「自分たちはもっと怖い経験をした」と語り出すのでした。

☞クリックで『カリガリ博士』ネタバレあらすじ表示

〜フランシスの回想〜

フランシスの故郷・ホルステンヴァルで大規模な興行が開かれます。

フランシスは親友・アランに連れられて、カリガリ博士が主催する“夢遊病者の館”へ行きました。

カリガリ博士は「25年の眠りから覚めよ!」と言い、夢遊病者のチェザーレを起こします。

カリガリ博士と夢遊病者チェザーレ

チェザーレは予言者であり、いつまで生きられるか質問したアランに対して「明日の朝までだ」と言い放つのでした。

アランは翌日朝、に何者かに殺されて死体で発見されます。

そんな中、フランシスと恋仲にあったジェーンは父・オルセン博士を探して彷徨い、カリガリ博士の小屋に入ってしまいます。そこで、夢遊病者・チェザーレを見て驚いて逃げ帰りました。

しかしジェーンは夜寝ている時、チェザーレに襲われて連れ去られそうになります。

気づいた住民がチェザーレを追い、ジェーンは道に置き去りにされて助かりました。

警察は別の人物を逮捕していましたが、その人物は「他の殺人事件とは関係ない」と言い張ります。

フランシスはずっとカリガリ博士の小屋を見張っていたので、チェザーレがジェーンを襲ったことにびっくりしました。

警察とカリガリ博士の小屋いくと、そこにいたチェザーレは人形の偽物であるとわかります。

フランシスは逃げ出したカリガリ博士を追うと、ある精神病院にたどりつきました。

そこにいたスタッフに「カリガリ博士という人物は入院しているか?」と聞くと、スタッフに「院長しかリストを持っていないので、取り次ぐ」と言われます。

フランシスが院長室に入ると、なんとそこにいたのはカリガリ博士でした。彼が院長だったのです。

フランシスは夜に、病院関係者と院長室に忍び込み、カリガリ博士の論文や研究レポートを読みます。

そこには大昔にカリガリ博士という人物が、夢遊病患者チェザーレと旅をしている周囲で、奇怪な殺人事件が起こったと書かれていました。

そして近年、院長の元にそのチェザーレが現れ、院長は学者的な興味を抑えられず彼を操って殺人を繰り返していたことまで書いてあります。

翌日、町外れの谷でチェザーレの死体が見つかり、フランシスや病院関係者は、頭に異常をきたした院長を取り押さえて拘束服を着せ、個室に閉じ込めます。

〜フランシスの回想終わり〜

フランシスは広場でチェザーレを見つけて驚愕し、「彼に予言をされたら命はない」と叫びます。

フランシスは広場の中央にいる恋人のジェーンに「いつ結婚してくれるか?」と尋ねると、彼女は「私たちは王族だから身勝手はできない」と虚な目で返されました。

フランシスとヒロイン・ジェーン

大きな建物の中からカリガリ博士が現れ、フランシスはパニックになって「この人物こそが悪の元凶だ」と叫び出して取り押さえられます。

そして拘束衣を着せられ、個室に閉じ込められてしまうのでした。

精神病院の院長(カリガリ博士)はフランシスを偏執病患者と診断し、「治し方がわかった」と言いました。

映画『カリガリ博士』END!

『カリガリ博士』ネタバレ感想・評価・考察

※映画『シャターアイランド』のネタバレを含みます。

どんでん返しもしっかりありますし、あらすじを考えてみても100年以上前の映画とは思えないほど練られていますね。

大まかに捉えれば、マーティン・スコセッシ監督/ディカプリオ主演の『シャターアイランド』(2009年)とストーリーの流れがほとんど一緒です。

このことからも『カリガリ博士』のストーリーが現代のサスペンスと遜色ないとわかるでしょう。

主人公が“信頼できない語り手”であり、精神病患者というオチの映画は無数にありますが、その元祖とも呼べるのが本作なのです。

さらに、

  • 別の犯人を登場させてミスリードを生み出している
  • カリガリ博士と青年フランシスが拘束衣を着せられるシーンを類似させている

なども脚本や演出の優れた点だと思います。

あとは、ヒロイン・ジェーンの表情がいちいち怖すぎるなど、『シャイニング』や『へレディタリー/継承』に通じる、役者の表情に対しての楽しみもありますね。

ドイツ表現主義的な楽しみ

ドイツ表現主義的な坂のシーン

映画『カリガリ博士』を観ると、「なんだこのファンタジー的なセットは!?」と感じると思います。

本作は、当時の芸術思想・ドイツ表現主義を色濃く反映しており、人間の主観や内面をそのまま表現したようなシーンがほとんどです。

斜めに倒れそうな小屋、三角形のドア、役人のテーブルが高すぎる、下り坂の構造がおかしい、などなど。

特に好きだったのは、精神病院の造形。

アーチが連なる入り口から階段や移動する人が見える現実的にありえない構造に興味を惹かれます

『カリガリ博士』の精神病院

個人的には形而上絵画でシュールレアリスムに影響を与えたジョルジョ・デ・キリコの作品「通りの神秘と憂愁」(1914)をモチーフにしているのでは?と感じました。

ジョルジョ・デ・キリコの絵画「通りの神秘と憂愁」1914年制作

「通りの神秘と憂愁」1914年 ジョルジョ・デ・キリコ

あとは、モノクロで登場人物の表情までぼやけたりするのですが、それすらアート的に見えるのが『カリガリ博士』の大きな見どころだと思います。

最後のまとめ

サイレント映画『カリガリ博士』はアート的にもサスペンス的にも後世に影響を与えた傑作だと思います。

改めて考察してみて、凄さや価値に驚き、新たな発見もできました。

こういう名作はどんどん広めていきたいですね!

『カリガリ博士』レビュー終わり!