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つまらない?映画『ファーストマン』ネタバレ解説・考察!伝えたいことやストーリーの意味,感想・評価

デイミアン・チャゼルの最新映画『ファーストマン』を観賞してみた。

デイミアン・チャゼル監督の今までの作品である、色彩あざやかでオシャレな『ラ・ラ・ランド』や、人間の衝突を過激に描いた問題作『セッション』など、派手な印象を期待してみると、肩透かしを食らった感は多少ある。

個人的には、このファーストマンはデイミアン・チャゼル節がしっかりあるし、完成度も高い良作だと考える。

なぜ『ファーストマン』がつまらないと言われるのか理由をネタバレありで解説。さらに監督が伝えたかった大きなテーマや映画の意味を語りたい。

デイミアン・チャゼル

デイミアン・チャゼル監督

エンタメ要素はゼロだが、主人公の気持ちを考えるとグッとくるぜ!

映画『ファーストマン』つまらないと言われる理由をネタバレ解説!

まず、映画『ファーストマン』は世界的に批評家の評価は高いものの、一般の視聴者においては「つまらなかった」なかったという感想は少なくない。

実際、海外の有名批評サイトロッテン・トマトでも、批評家の支持率は87%と比較的高いことに対して、一般の視聴者のレビューは66%と大きく下回っている。

理由は大きく2つあると感じたので、解説していく。

説明や熱気なしのドキュメンタリー

『ファーストマン』は世界で初めて月面着陸を成し得たニール・アームストロングについて、ジェームズ・R・ハンセンという作家が書いた伝記が元になっている。

訓練風景や、ドッキングのための宇宙飛行、月に行くパートなどがあるのだが、それらに関してかなり端的な説明しかなく、ニールやパイロットたちの意気込み等々も、ほとんど語られていない。

簡単に言うと、有人宇宙飛行という超ド級のイベントに対して、ニールたちの熱意が伝わってこない、というアンバランスな格好なのだ。

全体を通して、説明や熱気のないドキュメンタリーを淡々と見せられているような印象で、映画というより、記録映像的。

時間も全体で2時間20分ほどと長く、退屈してしまう部分がある。

エンタメ要素皆無の『ファーストマン』

真面目な映画なので当たり前といえばそうなのだが、映画『ファーストマン』には全くといっていいほどエンタメ要素がない。

登場人物が派手に騒いだり、楽しんだり、ギャグを言ったり、三枚目みたいな登場人物が出てきたり、と行った娯楽要素を意図的に入れていないのだ。

加えてセリフも少ない。

はっきり言って、ファーストマンは、映画に「楽しみ」を求める人にはそもそも向いていないのである。

ファーストマンの数式

デイミアン・チャゼル監督や製作陣がファーストマンで挑戦した素晴らしい部分

セリフを少なくした

ファーストマンでは、セリフが極端に少ない。

セリフではなく行動でニール・アームストロングやその妻の気持ちを描きたかったのだろう。そして、美しく画期的な構図を持つシーンを、不用意な言葉なしで楽しんで欲しいという意図があったのだろう。

ただ、セリフが少ないので、会話を楽しみながら感情移入したい!という人には向いていないかもしれない。

16mmと70mmフィルムを使い分けて撮影

ファーストマンでは、1960年代の古さを出すために、意図的に16mmカメラで撮影された荒い粗い映像の部分がある。対照的に、大きく広がる地球や、月の映像などは70mmカメラで撮影し、美しさを際立たせることに成功している。

パイロットの視点から様々な構図を描いた

ファーストマンではニール・アームストロング船長がどのような風景を観ていたか!?というのも一つのテーマだったように思える。

そのため、彼の一人称視点に切り替わって、息を呑むような壮大な景観が楽しめるカットが多い。

僕のお気に入りは、

  1. 青い輪郭を持った地球が頭上にあるという構図
  2. 月面着陸訓練中パラシュートで脱出する迫力あるシーン
  3. 月から見た地球が、三日月のように見えるシーン

これらにはどれも、ハッとするような素晴らしい瞬間がある。シーンを撮るために、一体どれだけ苦労しただろうか。

ちなみに、急に一人称視点に変わるという手法は、クリストファー・ノーラン監督がダークナイトやダークナイト・ライジングでやっている。

映画『ファーストマン』は月に降り立った英雄の物語ではない!

このファーストマンでスポットが当たっているのは、あくまで主役であるニール・アームストロングとその家族だ。

ニールの妻

つまり、ニール・アームストロングが偉大なNASAパイロットでアメリカの英雄という視点ではなく、全体を通して、家族を持つ父親が月に降り立ったという視点で描かれている。

宇宙飛行士としての使命、アメリカとしてソ連に宇宙競争で勝たなければいけない政治的側面は、付け合せの野菜くらいにしか描かれていない。

月に行ったのは、英雄でなく、一人の人間であり、夫であり、父親であるそう考えると、なんだか感慨深くないかい?

『ファーストマン』のテーマ考察・感想,評価

終盤、ニール・アームストロングが月に降り立った後には、素晴らしい場面が待っていた。

月に降りたニールが、死んでしまった娘のカレンと過ごした日々を思い出し、カレンのブレスレットを月の溝に投げたのだ。

ニール・アームストロングは、国家の競争がかかった重大な任務について、嬉しさや使命感を表情に出してこなかったが、その胸の奥には、月に行けばカレンに届くような気がしたという大きな想いがずっとあったのだという印象を受けた。(それを強調するために、任務に対して淡白だったのだと思う)

噛み砕いていうと、月に着陸するというのは人類の進歩の象徴で、その進歩によりカレンの様な病気の子供を救える!という考えを、ニールが意識の底にずっと抱いていたのだ。

(地球以外のまったく未知の領域に死後の世界へのヒントがあり、カレンがいるかもしれないというような幻想も、少なからずあったのかもしれないが、)

ニール・アームストロングは月に降り立った初めての父親だったのだ。

これが、デイミアン・チャゼルが伝えたかったファーストマンの真のテーマに違いない!