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Smells Like Maniac 第5話 共鳴 其の3〜ユーシュエン編〜

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Smells Like Maniac 第5話 共鳴 其の3〜ユーシュエン編〜

 

〜ユーシュエン編〜

間違いなく、今まで生きてきた中で一番興奮しているとユーシュエンは思った。小さい頃から勉強はかなりできる方で、比較的裕福な家庭の援助もあり、名門と言われる大学にそれほど苦労することなく進学することができた。アジア系ということで、子ども同士の差別や区別はあったが、あまり苦にならなかったし、勉強や運動で頑張ればそれなりに認められた。それよりもユーシュエンの心に影を落としたのは、大人たちの微妙な区別だ。自らの心の醜悪さに微塵も気づかず、綺麗事を言っている大人には我慢がならなかった。よく観察しているとわかるのだ。本人たちさえ気がついていない小さな悪が見えると、心の中でコツコツと何かがぶつかるような感覚があった。成長するごとに、社会を形成する継ぎ目が、こんな“小さな悪”で糊付けされているのだと気づき、自分の中で何かが音を立てて崩れていった。

大学で将来何をしようかと考えたとき、自分の中に答えはなかった。心のその答えが描かれている部分だけ、ポッカリと穴が空いているようだった。適当に就職してやりたくもない仕事を死ぬまで続けるのか。やりたいことはないが、そんな麻痺することに慣れるような人生は死んでも送りたくなかった。

ある日街を歩いていると、酔っ払い二人が急にケンカをし出しので、スマホを取り出して撮影した。家に帰ってから動画を見返すと、パンチが顔面に入って倒れるシーンなどがあり、割りと見応えがある。ネットにアップすると1週間で10万を超えるアクセスが集まり、ある種の快感が走った。それから探せばもっと面白い動画が取れるかもしれないと思い、校舎でマリファナを吸っている教授、交通の罰金を自分のポケットに入れている警察官。ドラッグの取引の現場など、いくつも撮影した。1年ほどで動画の広告料でかなりの金が入るようになったし、何より自分が社会の裏側を世間に知らしめているのだという使命感があった。しかし、まだ何か足りない気がする。あとほんの1ピースだけだ。

違法賭博ができるからと泊まってみたこのホテルで、殺人が起こった。ソフィアとジェームズの二人の死体を見て、理性は被害者の気持ちを考えると痛ましいと言っているが、ユーシュエンはそれが嘘だとわかりはじめている。この先は偽善で人生を台無しにしてなるものか、と強く思った。ジェームズやソフィアが殺された理由は何なのか。犯人は誰なのか。本能がすべて知りたいと渇望している。

ホワイトブロウの半円の形こそ、自分の心に欠けていたラストの1ピースだった。ユーシュエンはそう確信した。その証拠なのかはわからないが、カルロやイドリスやクリスたちと話していると居心地がいい。何かについて皮肉を言ってくるロバートでさえ必要だと感じられる。この場所こそ自分の居場所なのかもしれない。おそらく、みんな心が一片欠けてしまった者同士なのだろう。彼らもホワイトブロウの1ピースで足りない部分を埋められたのだ。いわば心に同じ白銀の半円の刺青を入れた義兄弟に近いのかもしれない。

そんなことを考えながら、ユーシュエンは、今まで合理的な発想しかしてこなかった自分に、こんな詩的な一面があったことに少し驚いた。

殺人事件に巻き込まれる、考え得る最高のエンターテイメントじゃないか。こんなに楽しいことはないだろう。体の奥で何かが漲っている。

 

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