CineMag☆映画や海外ドラマを斬る!

新旧問わず、素晴らしい映画や海外ドラマの考察・解説・批評・感想を書いています。

Netflix映画『シカゴ7裁判』あらすじネタバレ解説・考察!実話を基にした左翼VS政権の緊迫感

『シカゴ7裁判』(The Trial of the Chicago 7)

Netflixで配信の『シカゴ7裁判』(The Trial of the Chicago 7)を視聴。

1968年の抗議デモが暴動に発展して裁判になった実話をもとに描いている。

ベトナム戦争を終結させたい左翼の若者と、政権の露骨な叩き潰しが法廷で真っ向対立していて見どころ十分。

あらすじネタバレ解説や、良かった点、イマイチだった点を考察してみましたので、好きなところから読んでね。

 

シカゴ7裁判あらすじネタバレ解説

シカゴ7裁判の俳優ジョセフ・ゴードン=レヴィット

☞クリックであらすじネタバレ表示

1968年シカゴで民主党の全国大会が開かれ、急進左派連合のグループがデモのために公園を拠点に集まる。結果的に暴動が起こって警察隊と衝突があった。

ニクソン政権が誕生しベトナム戦争の増兵を宣言。

各急進派グループのリーダーであるトム・ヘイデン、アビー・ホフマン、ジェリー・ルービン、デイヴィッド・デリンジャーら7名が民主党大会の際に暴動を扇動したとして捕まって裁判が始まる。

ウィリアム・クンスラー(マーク・ライランス)が7名の弁護することになる。

ブラックパンサー党の議長で警官殺しの容疑もあるボビー・シール(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)もいっしょくたにされ被告に加わった。

司法局やホフマン判事は有罪前提で裁判を進め、陪審員の差し替えなど汚い手を使っていく。

キレもの検事のリチャード・シュルツ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は共謀罪を激しく追及。

そんな中、ブラックパンサー党のフレッドが警察に撃たれて死ぬ痛ましい事件も起きた。

ラムゼイ・クラーク前司法長官が有力な証言をするが、判事ホフマンはそれを陪審員に聞かせなかった。

ヘイデンが暴動を斡旋したとも取れるテープが発見されるが、アビー・ホフマンは証言台で聖書からの引用をして、その言葉だけ切り取る愚かさを説明した。

最後の陳述で、ヘイデンは裁判中にベトナム戦争で死亡した兵士たちの名前を読み上げていく。被告らに加えて客席、検事のシュルツすら起立して敬意を示した。

判事は懲役5年を言い渡すが、再審で却下され彼らへの起訴は無くなった。

シカゴ7裁判ネタバレ考察/左翼の活動の意味を理解できる有意義な作品

左翼のグループと警察の集団

個性的な7人のリーダーたちが意見を衝突させながらも、徐々に一枚岩となって不条理な政権と司法に毅然と立ち向かい、聴衆にもそれが伝播していく感動とカタルシスがあった。

特に裁判に対するスタンスの違いが浮き彫りになっていたヘイデンとアビーがお互いに敬意を抱いて、本来の目的である戦争終結の方向を向くさまは印象深い。

過激左翼と呼ばれている彼らの活動が、ベトナム戦争終結の一助になったかもしれない。実際のベトナム戦争終わりは7年後の1975年で、ヘイデンやアビー・ホフマンの活動がどれほど影響したかは不明だが、大衆に戦争反対の意識が広まったことだろう。そんな救いのあるラストだった。

彼らの活動は決して無意味ではない。個人的に『シカゴ7裁判』からは、そんな学びがあった。

リアリティと緊張感ある裁判シーン

『シカゴ7裁判』を撮影中のアーロン・ソーキン監督とキャスト
司法の現場に詳しいわけではないけど、裁判のシーンはリアリティと緊張感にあふれていてとても見応えがあった。

被告7名と弁護士が並び、陪審員、判事、検事がいる。さらに書記もいて、後ろの傍聴席に家族や関係者も座っている。総勢100名以上のキャストが必要で、撮影は大変だっただろう(デモのシーンもそうか)。

裁判を描いた映画でも、本作はかなり裁判自体のシーンが多く、全体を映していたのではないか。

例えば名作『十二人の怒れる男』なら陪審員の相談の場面だけ、リチャード・ギアの『真実の行方』であれば裁判の外や刑務所での人間ドラマが多い。

リアルな現場の風景に、個性的な左翼リーダーたちの発言をプラスすることで、裁判のシーンが緊張感とドラマを兼ね備えたものになった

シカゴ7裁判感想/政権と司法が悪いシンプルな構図がイマイチ

シカゴ7裁判の主人公ヘイデン(エディ・レッドメイン)

ベトナム戦争はアメリカ政府が南ベトナムの独立を支援した後に駐留軍を派遣し、攻撃されると軍事介入して泥沼化した。

そう考えると、確かに当時の政権が悪い部分はあるだろう。

北ベトナムはソ連が支援していて、共産主義VS資本主義の縄張り争いだったのだ。

前提としてベトナムとアメリカに多大な犠牲を出したこの戦争が間違っていたことに少しも異論はないが、『シカゴ7裁判』ではベトナム戦争反対派VS悪い政権というシンプルすぎる構図が気になった。

左翼側が主人公だということもあって、左翼リーダーたちの多様性はよく表現されているのだけど、保守側は一括りに“悪い”とされていたのが微妙。

現実には、共産主義に対抗して世界を良くしたい思想(正しいかは置いておいて)を持った人物など、さまざまな考えがあったはずだ。

判事のシュルツの良心に少しスポットが当たっていたけど、保守思想の正当性をもっと描いたほうが、よりリアリティのある社会派映画になったと思うし、ラストもさらに感動できたと思う。

シカゴ7裁判はアカデミー賞候補と言われているが…

アビー・ホフマン役の俳優サシャ・バロン・コーエン

『シカゴ7裁判』は2021年度アカデミー賞にノミネートされると言われている。

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』や『スポットライト 世紀のスクープ』という、過去に作品賞をとった映画に出演したマイケル・キートンをジョーカー(切り札)として登場させるあたり(実写初代バットマン役の彼がジョーカーというのは面白い)、戦略としては作品賞を狙ってる気もする。

トランプとバイデンの大統領選の年に公開されたことで、社会的な意義も大きいので可能性はあるだろう。

しかし、ゲイリー・オールドマンとデヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』や、韓国系移民を描いたスティーヴン・ユァンの『ミナリ』などがあるので、個人的に作品賞は難しいと予想。

主演男優は、同じく候補の『マ・レイニーのブラックボトム』などが強烈なので難しいだろう。

ただストーリーの流れは非常に緻密だったので、脚本賞は取れる気がする。アビー・ホフマンなど被告たちのパーソナリティやセリフなどに引き込まれた。

演技面では『タラデガ・ナイト オーバルの狼』でゲイのF1レーサーというトリッキーな役で笑わせてくれたコメディアンのサシャ・バロン・コーエンが、アビー・ホフマン役で存在感を放っていたのも印象深い。

普段はおどけているけど信念があり弁が立つ、イッピー(集団名)のカリスマリーダー的な役柄だ。彼は助演男優賞を狙えるかもしれない。

関連記事