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Smells Like Maniac 第11話 氷上での収束

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Smells Like Maniac 第11話 氷上での収束

〜クリス編〜

 

ホテルに警察が群がったのを見て、クリスはこの三日間の非日常が終わりを告げたのだとため息をついた。捜査の指揮を執っているウィルソンという男性は、はじめこそ被害者でもあるクリスたちを気遣う素ぶりはあったものの、三名の惨死体を確認してから急に顔色を変え、全員のボディチェックはもちろん。持ち物はすべて一旦押収。ノートパソコンまでチェックするという徹底ぶりだった。

 

みんなは文句を言いながら、それぞれ別々に14日〜16日まで何をしていたか証言をした。警察はケイトによる計画的な犯行の可能性を考え、ソフィアとジェームズの死体の銃槍の確認を急ぐ動きをみせた。

 

ケイトの死後、各々が警察が来るまでにイドリスと証言をどうするかしっかり擦り合わせたのもあって、全員の証言は今のところ疑われていないようだ。加えて地元の警察は、ソフィアとジェームズの身元を特定すると、この殺人事件が社会に与える政治的な影響を重くみて、事件調査への協力として全員近くのホテルに数日滞在してほしいということだった。カルロが近くにあるパイニーレイク湖畔にロッジを所有しているということで、一同はそこに泊まることになった。

 

〜シャーリー編〜

 

今日分の取り調べを終え、空いた時間はカルロの提案で、パイニーレイクでアイスフィッシングをすることになった。今日の取り調べを終えたクリスと3人で、ロッジを出てすぐ目の前にある湖に足を掛ける。スケートリンクに立ったことはあるが、凍った湖の上ははじめてだ。氷が割れないか心配する自分の眼の前で、カルロが軽くジャンプしてみせた。

 

「氷の厚さは50cm以上ある。君の体重なら春まで割れることはないだろう」カルロが歯を見せながら言った。

 

ポーカーで向かい合ったときから、こんな(おど)けた人物だっただろうか。陰気な方ではなかったが、自分のホテルであんな陰惨な事件が起きたわりには、凹んでいるそぶりは全くない。むしろ、嬉々としながら、アイスドリルでこれ見よがしに穴を開けていった。

 

「何をぼんやりしているんだ?これから夕食を釣り上げなくちゃならないんだぞ。全員分だ。」そう言ってカルロがアイスフィッシング用の短い釣竿を渡してくる。

 

氷の上に穴がぽっかりといくつか空き、釣果を競争ということになった。カルロがニジマスを釣り上げて声を張り上げているところに、ロバートもやってくる。4人はそれぞれ、正方形の端に空いた穴に釣り糸を垂らしていた。背中を向け合いながら、カルロとロバートは大声で喋っている。

 

「こんなことになってしまったが…。俺はこの状況をそこそこ楽しんでいる。なぜだかずっと考えていたが、やっとわかったよ。ソフィアのせいだ。彼女の死に姿が、言葉ではない何かを伝えてくれた気がするんだ」カルロが少しトーンを下げて言った。

 

「その言葉、明日ウィルソンにしっかり報告させてもらうさ。ついでにクリスもそう思っていると付け加えておくよ」ロバートが冗談を言った。

 

「彼女の死体は、自分にとって何かしらの答えだったような気がする。おそらくみんなもそう感じているんじゃないか。愛というよりは慈愛だろう。それに包まれているようだった」クリスが遠くを見ながら喋った。

 

「付け加えるなら、ぴったりとはまっている気がするんだ。ソフィアの死体が、ホワイトブロウにね。何十年も前から、この死体があの部屋に現れることが決まっていたように。輪っか。運命の輪というものの片側に、間違いなくソフィアがいるのだろう。そしてもう片側は…」途中で物思いにふけるように、ロバートは白い息を吐く。

 

その瞬間、シャーリーの竿がビクッと動いた。引き上げると30cmほどのニジマスが掛っている。ジタバタ跳ねるニジマスを見て、思わず変な声を出してしまった。みんなが笑う。

 

ニジマスは1匹、また1匹と釣り上がっていく。氷上で背中を向けあってニジマスを釣りながら、ソフィアの死体について、それぞれがとりとめのない表現を交わしている。死体という冷たい話題。とてつもなく冷たいこの四角形。陽が傾く。シャーリーの目に、真っ白なはずの風景が、徐々に色づいて見えるようになっていた。赤や紫色が浮かび上がってくる。

 

この瞬間、体には血が流れている。確かに生きているんだ。シャーリーはロバートやクリスの意見を聞きながら、肌でそう感じていた。

 

10匹ほど釣り上げたところでカルロがもう十分だろうと言い出し、4人はロッジに戻ることになった。

 

湖畔にロッジは3つあり、カルロは気を利かせてシャーリーとクリスに左端のロッジを2人で使っていいと言う。カルロとアンは右端。ロバート、イドリス、ユーシュエンは真ん中のロッジを使うことになった。

 

夕食は真ん中のロッジにみんなで集まった。なんとイドリスがニジマスを料理したようだ。学生時代にレストランの厨房で働いていたらしい。堅物に見えて料理が上手い。

 

夕食後は長い時間、コーヒーを飲みながら窓から星を眺めていた。

 

夜遅くにベッドに入り、シャーリーはクリスの腕に抱かれながら、この人になら自分の運命を預けてもいいと思った。

 

〜クリス編〜

 

明け方に目が覚めてしまった。シャーリーはまだ寝ている。外に出て湖畔でタバコを吸っていると一匹の野生のエルクが木々の中から現れた。クリスをじっと見つめている。正面から見ると、角が雲に向かって両腕を伸ばしているようだ。黒い瞳は優しげだった。角に少しだけ雪が積もっている。

 

時計は午前11時を回った。ホワイトブロウに赴いてウィルソンからの話に答えながら、クリスからもときおり質問をしていった。ケイトが持っていた銃の弾と、ソフィア、ジェームズの体から取り出した銃弾の種類が一致したということが聞き出せた。警察は現在、彼女を第一容疑者として捜査を進めていると言う。

 

ウィルソンが言うには、ホワイトブロウは部屋のバルコニーが丸くせり出した形状なので、そこから隣の部屋に移動するのは案外簡単で、腕の力がそこそこあれば、それこそ上や下の階にも行けるということだった。

 

405号室に泊まっていたケイトが、隣の隣にある407号室のソフィアの部屋に移動するのは、雪で滑るのさえ気をつければ、女性とはいえ難しくはなかっただろう。やはりケイトの仕組んだことだったのか。

 

昼を過ぎて警察の許可が降り、晴れて全員が自由の身となった。カルロ、ロバート、ユーシュエン、イドリスは、すぐに帰ろうとせず長々と立ち話をしている。不思議なものだ。友情とは、秘密があるところに芽生えるのだろうか。

 

クリス自身も名残り惜しかった。しかし昨晩、落ち着いたらシャーリーと一緒に暮らすことになり、新たな生活が楽しみでもあった。

 

ロバートが声を掛けてくる。

 

「ひどい三日間だったが、少なくともお前と喋れて楽しかった」

 

「その言葉に同意するよ。異質な空間で、異質な人同士集まったという感じがする」クリスは素直に言葉を返した。

 

「冗談抜きでそうだったんだろう。日常生活に戻ってからは、もう二度と味わえない空間さ」

 

「救われたんだろうか?生き残った全員が」

 

「君はとりわけそうだろう。何があったのかは聞かないことにするよ。それに生き残ったものだけじゃない。きっとソフィアやジェームズ、ケイトもそうなんだと思う。そして俺たちはもう2度と会うことはない気がする。」

 

その後、クリスは自分が何と返したか覚えていなかった。とにかく、夢のような事件が終わりを告げたのだ。

 

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